既に四半世紀まえに終了した番組だが、良質の旅番組と言えば真っ先に思い浮かぶ
のが「兼高かおる世界の旅」である。番組開始当初、庶民にとって海外旅行は夢のまた
夢、まったく非現実的なものだった。海外旅行自由化は1964年のことである。そんな
時代にアメリカ留学経験のある31歳の女性が世界を駆け巡ってこの番組を作り続け
ていった。プロデューサー、ディレクター、レポーター、ナレーターの一人四役、ときにカメラマンを
兼ねることもあったという。31年間の放送回数は実に1586回、訪問国は160カ国
に及ぶという。

毎週日曜日の、たしか11時からだったと思う。『八十日間世界一周』のテーマ音楽
にのせて今はなきパンナム(パンアメリカン航空)のジェット機(ボーイング707!)
が悠然と飛行する映像が映し出される。1967年からカラー化された
とのことだが、筆者は白黒テレビで見ていた。そんな時代だったが、毎回放映される
世界の国々の風俗や文化が珍しく30分をあっと言う間に過ごした記憶がある。
今考えると番組の構成は地理・地誌学的な基本事項をちゃんと押えていたような
気がする。海外旅行が当たり前の時代になった今の番組には、そうした真摯な
姿勢が少し欠けているのではないだろうか。

この番組の魅力は兼高本人と聞き手である芥川隆行の洒脱なかけ合いにもあった
と思う。いかにも良家の子女然とした兼高の上品な言葉遣いと、時にべらんめえ調になりながら
兼高から旅の逸話を引き出す芥川は絶妙なコンビだった。